対外債務の膨張
経常収支とは、一国による財・サービスの輸出入等にともなう対外的な支払いの収支尻だ。したがって、経常収支が赤字の場合、海外からの資金の支払いが受け取りを超えているということゆえ、その分、外国からの借入金が発生する。米国は1970年代からほぼ一貫して経常収支の赤字を継続しているので、毎年の経常収支赤字が累積した分の対外純債務を抱えている。
具体的に数字を追ってみたい。米国の経常収支は、プレトン・ウッズ体制が崩壊した1971年に赤字化して以降、名目GDP比でみた赤字幅は、プラザ合意(1985年)によって急激なドル安が始まった翌年の1986年に3%を超え、不動産バブルが絶頂期を迎えた2006年には6%に達した。これにより、かつて世界最大の対外純債権国であった米国は、1986年に純債務国に転じ、2008年には対外純債務残高が名目GDPの24%に達している。
基軸通貨国の特権としては、通常、ある国が海外から借金をする場合、基軸通貨建てで借り入れるのが一般的だ。毎年のように経常収支が赤字で、その累積である対外債務が増加した場合、経常収支の赤字を解消すために自国通貨安にすると、対外債務は外貨(基軸通貨)建てのため支払い負担が増大し、この国は早晩破綻することになる。ある一国を除いて、経常収支の赤字を続けながら、自国通貨の下落を容認することはできない。そのある一国とは基軸通貨国であり、現在の米国だ。
米国は基軸通貨国であるため、長年の問経常収支赤字が累積した結果生じた米国の対外債務は基本的にドル建てとなる。現在、大量のドル建て米国債が各国によって保有されている。米国はこれまでドルの下落を容認してきたが、米国の対外的な借金はドル建てのため、自らの腹はまったく痛むことがない。その代り、米国債を保有している外国の政府や投資家が、ドル安によって自国通貨で評価した米国債の価値が下落して、損を被ってきた。
しかし、前述の通り、これまでドルに代わる基軸通貨の要件を備えた通貨はなく、また、ひとたび普及し利便性を備えたドルの使用を断念することには二の足を踏むため、人々は不承不承ドルの保有と使用を続けている。これは、基軸通貨国の特権とでも呼ぶべきものだ。米国は基軸通貨国の特権に甘んじ、これまで、経常収支赤字とドル安を続けてきたのだ。